37-2.『じゃぁ、戦後の愚連隊みたいな感じで・・・・・・』って.....
グリーンキーパーの野帳の付録
37-2.『じゃあ、戦後の横浜周りの愚連隊みたいな感じで考えるとな』って、考えんといてくれますか............
《前回を御覧でない方はこちらから............》
「参ったなぁ〜」
それは、来週に倶楽部選手権の予選を控えた日曜日だった。
相変わらず奴は 午後からの刈り込みや転圧の段取りを矢継ぎ早に繰り出し、なおそれに併せて バンカーやティの周りなどの整備の段取りも組み込んでくれてもいたれば、それこそ俺達 朝から夕方までてんやわんやだった。
確かに毎日毎日 忙しいには忙しかったが、しかしやればやっただけグリーンは早くなっていったれば、それはそれでやりがいのある毎日でもあった。
「それにしても、参ったなぁ〜」
それは 日曜の午後のパッティンググリーンの隅っこの植え込みの陰だった。
キーパーは 来週から都合五週間にわたる倶楽部選手権を前に“コースの最終点検”の視察プレーをする競技委員会やらコース委員会、キャディ委員会の御歴歴に引きずり回されていた。
例年
むしろ 夏に痛めてしまったグリーンが何とか体裁を取り戻せるか否かのぎりぎりの勝負をしてきたのが恒例だったんだが、どうやら今年はコース委員長のツルトロさんの発案でそんなこともするようになったらしい。
まぁ、名うての腕自慢の親爺共がそんなことをしたくなる程に 今年のグリーンは出来が良いと云うことなんだろうけど.........
「いやぁ、本当に参ったなぁ・・・・・・」
ただし ここに来て刈高はコンマ2ミリほど上げられることになった。
「スピード落ちませんか?」
そう聞いた俺に奴は......
「まぁ、おおかた面も出来たしね。ここでコンマ2ミリ上げたってそんなに変わんないよ。むしろ 最後のトロトロ感が出て、ツルトロさんなんか嬉しがっちゃうかもなぁ」
そう言って、しかし さも嫌嫌し気に御歴歴のお供に出かけていったものだ。
「もぅ 参っちゃうなぁ」
さっきからずっと参ったり お詣りしたりしているのは、八っつぁんと熊さんなんだが、まぁ俺から見ていても奴等が参っちゃうのも無理はないんだけどねぇ.........
「本当にさぁ、あのおばさん何とかならないか?」
八っつぁんがぼやけば、
「全く 毎日毎日あれじゃぁ 堪ったもんじゃぁないっすよねぇ」
熊さんもぼやき返す。
実際この二人は 現場でも コースの外でも良いコンビなんだが.........
「なぁ 民さんよぉ。お前あのおばさん何とかしてくれよ」
......って、俺に振らないでくれよ。
この二人をここまで悩ませているのは コース課の、小母さんともお姉さんとも どちらとも云い切れない、これがまた何とも微妙なお年頃の事務員さんのことだった。
俺達は この事務員さんのことを“おばねぇさん”なんて影で呼んでいたんだが、この“おばねぇさん”、最近すこぶるご機嫌が悪い。
おまけに情緒不安定。
今の今まで笑っていたものが いきなり怒って喚き散らかしたかと思えば、今度はべそをかいて 便所に籠もっちまう。
肥料や農薬の発注ミスは相次いでは 返品と交換の嵐を巻き起こし、伝票の処理もいたく好い加減で 年がら年中総務から確認の電話がかかってくる始末だった。
おまけに“おばねぇさん”どうもこの二人には
「ありゃぁ、更年期か?」
ぼそっと、熊公が云った。
「いや、幾ら何でも更年期はまだまだだろぉ」
って俺が云うと......
「ぃやぁ ああ云うのをな、若年性更年期障害って云うんだ」
......後ろの方から声を投げてきたのは 弥次さんだった。
「またまたぁ〜 そんなのあるわけないっしょぉ。真性痴呆症の誰かさんの記憶違いだって」
すかさず合いの手が入ったが、これは一緒にやってきた喜多さん。
この二人、親子程年が離れているくせに妙に馬があっては、普段から まるでネタを合わせているかのように即興で漫才さながらの会話に興じているんだが............
「おぅ、いつまで油売ってんだ。お客が切れないでグリーン刈れないんなら、カラーの外の零れベントでも毟ってろ」
俺達が散散に“おばねぇさん”の更年期談義に花を咲かせていると、いつの間にかサブの親爺っさんまでやってきちゃったじゃん。
「え?誰が更年期だよ。弥次か?」
親爺っさん、八つ手の葉っぱみたいな大きな手で 一番大きな声で更年期を連呼していた喜多さんの肩を鷲掴みにしては 力任せに揉み上げたものだ。
「あだだだだだだだ・・・・・・」
「まさか俺のことじゃぁねぇだろうなぁ。俺はまだ現役のびんびんだぞ」
「ぃででででででででで・・・・・・はいはい。平素 親爺っさんの武勇伝は、そりゃぁもう悉く もれ承っておりますですよ・・・・・・」
「なんだぁ? 誰が
「あががががががぁ、壊れちゃう壊れちゃう・・・・・・」
「馬鹿、まだまだだ。人間がどのくらいで壊れるかくらいは、とっくに実験済みだ。壊れる一歩手前で勘弁してやるから 有り難く思いな」
「あぁ〜りがとうございまずぅ.........
「......でね、なんとかならないっすか。あの人のヒステリー」
「お前らなぁ、女のああ云うのは 男が何とかしようたって 何ともなんねぇよ。あれにゃあれの事情もあらぁな。もう知らんぷりして そっとしといてやんな」
結局俺達は、親爺っさんも交えて カラーの外側の零れベントを毟りながら、“おばねぇさん”の更年期について語り合っていたんだが。窮状を訴えた俺達に、親爺っさんの答えはにべもなかった。
――――――――もっとも、さしもの“おばねぇさん”のヒステリーも、親爺っさんや 奴には及ばないんだから 余裕かましていられるんだろうけどもねぇ
「いやぁ、本当に弥次さんの云うところの 若年性更年期障害ってのがあるような気がして来ちゃったよ」
「ばか、本当にあるんだってば」
「ないない。この人の云う事ってば本当に千に三つだから」
「千三つじゃぁ、それじゃ“どこかのカルト”と一緒じゃぁねぇか」
「そういやぁ、奴も相当にグダグダだけど、あれも男の更年期かなぁ・・・・・・」
......っと、その時だった。
「なになに?更年期?......良いなぁ。更年期。良い響きだなぁ〜」
いきなり乱入してきたのは 最近では熟女好きの病膏肓も些か度の過ぎてきた 馬公だ。
「......こ う ね ん き ・・・・・・この甘美で耽美な響きってばねぇよなぁ。良いなぁ、更年期・・・・・・」
......って、お前は古今東西十重二十重に勘違いをしていないか――――――――
さぁ、最終組を追いかけてグリーンを刈り込んで、ようやくに終わる頃にはもう日没間際だった。
機械を洗って事務所に戻ってみれば......
「いやぁ、参ったなぁ・・・・・・」
奴が 件のソファにずくらんでは頭を掻いていた。
「?......どうしたんです?」
この人も 実は事務の“おばねぇさん”に手を焼いているのか と聞こうとした俺に、奴はぶつぶつとぼやいて来た。
「グリーンなぁ、ちぃっとばかし娑婆気出し過ぎちまったな。ありゃぁ倶楽部選手権終わったら余程に上手く手当てしてやんねぇと、来春にとんでもないことになるかもしんねぇや・・・・・・それにしても堪え性の無ぇグリーンだなぁ・・・・・・」
そう云いながら、しかし その顔はどこか嬉しそうに にったらにったら笑ってもいるんだから、この人の肚の知れないことと云ったら無かった............
2009.11月号 37.みんなで団十郎だぞって・・・・・・ より付録の二つ目 前回のサブタイトルはダサダサでしたが この回のサブタイは ちょっとお気に入りだったりします 元ネタは六代目圓生師匠の“中村仲蔵”で、自分の出過ぎた芝居を心配する仲蔵に 親方の団十郎が啖呵を切る『(俺を)誰だと思う。団十郎だぞ』って下りから。まぁ、どうでも良いんですが(笑 “おばねぇさん”の話は次回38.そうして、もう僕たちはマドンナに首ったけに繋がりますが、こう云うのは本誌と並行して進めない方が良いんでしょうかね そう云う意味では 二月間を開けたのは正解かも知れません。まぁ、深慮のあってのことで無し。例に依っての怠け癖なんですが(苦笑 ちなみに手許には 既に一月号が届いております(苦笑 そう云えば......【絵日記】全然更新ってませんが(汗 いや、【酔虎独酌】とか、HP本体の記事とか............ そうして見ると、ついこの間まで日に二本三本と更新していたってのは、いや実にまめな行いだったんですねぇ(莞爾 |