37-1.『キーパーを組長に譬えたら・・・・・・』って......
グリーンキーパーの野帳の付録
37-1.『キーパーを組長に譬えたら サブは若頭筆頭か・・・・・・』って、物騒な喩えは止しましょう............
『じゃぁしょうがねぇからグリーン詰めて見っかぁ・・・・・・』
実際心底面倒臭そうに奴は言った。
コース委員長さんとどんな話をしたんだか、ここに来て奴も倶楽部選手権に向けてグリーンを『ツルツルトロトロ』に仕上げるつもりになったらしかったのだが、それにしても奴の如何にも気乗りのしていない口ぶりったらなかった.........
『今年は梅雨時にろくな管理も出来なかったし、こういう年の秋口にあんまり娑婆気丸出しにすると、来春に こっぴどいしっぺ返しくらうんだよなぁ・・・・・・』
奴の息の上がらぬことの甚だしい。
「そんなに面倒で嫌で 気が乗らないなら、いっそやらなきゃぁいいのに・・・・・・」
ぼそり 呟いた俺に奴は、
「いやそうはいかねぇ。コースの男の意地がある。いや、sibafunokurokoは ぁ男で ぇござぁ〜るぅ〜 チョチョン チョンチョン」
「・・・・・・って、そのチョンチョン云うのは何なんです?」
「折角の見栄だから、ちょっと拍子を取ってみましたが」
......って、そんなことして遊んでいる場合じゃぁないでしょ...................................
そんな風に漠然と考えていた俺に 奴が回してきた仕事は肥料撒きだった。
バーチカルカットがようやく一回りして 厚めの目砂を撒いて ようやくに一息ついたグリーンに、奴は法外な量の肥料を俺達にぶち込ませていた。
尿素をごっそりと融かした液肥と、それを追いかけて 三成分横並びの粒肥。
そんなことをしてグリーンの暴れないはずのない。
ある日突然
寿司や弁当に入っている
毎日の慌ただしい段取りの中で、グリーンの刈粕の回収はとんでもない重労働になっていた。
......それだけじゃぁない
「グリーンが遅い」
「ごそごそして球が走らない」
「二段グリーンの境の斜面で球が止まる」
「朝と夕方でタッチが全然違う」
その月の月例は、いや散散に叩かれて終わった、
それを――――――――
「いやぁ、思ったよりも喰い付きが良くって何より。これで喰ってくれないようじゃぁ 余程に考えないとならないところだったなぁ。知ってるか?ああ云うのを“昭和のグリーン”って云うんだ」
啞啞と笑って奴はその怨嗟や憤懣を意に介さぬ。
「とりあえず一回バーチの跡を消しちまうんだ。どうせ冬になればまた疵痕も浮いてきて、そんでもって春にはそこから青くなってくれるからよぉ」
むしろその周囲の顰蹙を悦びながら
週に一回の薄い目砂と、平日の天気の良い午後から週に二三回グルーマーを当てながらの刈り込みを段取りながら、今度は一転して単肥と微量養素や カルシュウム クエン酸やブドウ糖を遣いながらこまめに施肥を繰り返している。
......と云うと 話は早いが、これはこれでなかなかに忙しい段取りだった。
「本当はこの時期って、秋の仕事や 冬支度が忙しいんだけどなぁ・・・・・・」
そう云いながら、ちゃんと奴の段取りには『秋の仕事や冬支度』も入っているんだもん。
堪ったもんじゃぁないのは誰あろう俺達だった。
そうして奴の段取りに翻弄されながら、午後一でグリーンのスピードを測るのが俺と馬さんに割り当てられた仕事だった。
まぁ 教えて貰って毎日計っているんだけど、グリーンなんてそんなに早くなるもんじゃぁないんですよ・・・・・・
コンマ五フィートに一喜一憂しながら砂を撒き 午後の刈り込みをして、肥料を撒く俺達だったが.........
「よぉし、刈高下げるぞ」
二三日お天気が続いた良く晴れた日の午後、奴は突然にその言葉を口にしていた。
そうして、奴の設定した刈高の、その数字はどうだ。
午後から最終組を追いかけて、グルーマーを当てながらダブルで刈り込むというその刈高に俺達は.........はっきり云ってビビっていた。
“芝生のカルト”、ついに気の線に触れちゃったか・・・・・・
いや、マジでそう思った。
「本当にこの刈高なの?」
グリーンモア*1のハンドルのところに貼り付けたガムテープに書かれた刈高を指して、俺は機械担当にこっそりと聞いてみた。
「マヂですよ」
機械担当の顔も心なしか引きつっているみたいだった・・・・・・
......そんな俺達の動揺を知らぬ気に
「う〜ん、グルーマーをなぁ〜。逆転させたら流石にやり過ぎちゃうかなぁ〜」
しかし、軽トラにグリーンモアを積んでパッティンググリーンに集まった俺達を前に、奴は この上まだ迷っているようだった。
「とりあえず、やってみっか」
なんだって暫く天を仰ぎ芝に伏しては、結局踏ん切りを付けられなかった奴は、俺に手招きすると機械を軽トラから降ろさせ、グルーマーを当てない部分と、正転、逆転、とその場で三往復ずつ刈り込ませては、またしばらく芝を撫でたり梳かしたりしては悩んでいる振りをしている。
その間俺達、所在なげに突っ立ってもいたんだが、やつに頓着はない。
なんたって、ダブルの刈り込みなんだから出来れば早くに仕事を始めたいんだが.........
なんだって 奴にゃそんなこと頓着ない。
「いいやぁ、普通にグルーマー当ててダブルで刈ろうや。ちゃんと引っ搔かないラインで、綺麗にクロスさせてくれよぉ〜」
って、ようやくに奴の出した結論は午後一の段取りの説明の時に話したのと何ら変わらない。
まぁ、何時もそうだから、今更俺達もがっかりはしなかったんだけどねぇ.........
とまれ、そんなに
俺はそのまんまパッテンの刈り込みを始め、他の奴等は一斉に担当のホールに散っていった。
そうして、奴は暫く 『良い圃場だ』と悦んだ件のパッテンでカタビラを抜いたりしていたんだが、ダブルで刈り込んだ部分が拡がり出すと、また戻ってきては芝を撫でたりさすったりしている。
「スピード、計ってみないんですか?」
グリーンモアを止めて聞いた俺に、奴は如何にもつまらなそうに応えた。
「まだまだ面が出てないから、今計っても無駄だねぇ」
「でもこれだけ刈高落としたんだし、少しは早くなっていませんかねぇ」
「うーん・・・・・・ほれ、観てみなよ......」
そう言うと奴は芝の面を熊手のようにした指先で掻いて見せた。
奴の指で掻き出された葉で、折角刈り込んだばっかりのグリーンは
「......こう云うのをきちんと始末しないと、ちゃんとした転がりにならないし。第一 十八ホールで均一な面を作れないんだよねぇ・・・・・・まだこの先あの手この手だなぁ、いてててて・・・・・・」
膝に手を当てて、矢鱈にしんどそうに立ち上がった奴は今度は腰に手を当てては伸びをした。
そうして、ハウスの方からサブの親爺っさんが悠然と歩いてくるのに気付いては、
その姿を見る限りは、全くどっちがコースの親分だか分からなかった.......................
2009.11月号 37.みんなで団十郎だぞって・・・・・・ より付録の一つ目 いやいや、なんだってここ二月の慌ただしいことと云ったら、隨分と間を開けてしまいました。すみませんすみません(汗 なんせ人間の器小さいものですから、あれこれが詰まってくると途端に手が止まっちゃいます(笑 まぁ、何かをしているわけではありませんで、ほとんどは茫然としているんですが(泣き まぁ、例によって 本誌の方の原稿は、一月発売の二月号の校正が終わっていたりもしますが......... |
*1:パッティンググリーン用の芝刈り機