36-4.『試行錯誤って云うと 耳触りは良いけど』って............




sibafunokuroko's website仰峰閑話second season

グリーンキーパーの野帳付録spin off



36-4.『試行錯誤って云うと 隨分と耳触りは良いけどねぇ』って 自分のことを棚に上げて............






《前回を御覧でない方はこちらから............》
「さぁ 元気に行ってみよぉ」「って、他人事だと思って・・・・・・。でもやっぱあれ?BGMは『どぉ〜んがどんが どんがらがった♪』でいいの?」「好きにしなさい(呆 」





これこれ 何処に行っちゃうの(笑
先代まえのキーパーの仕事?......ちょくに話したこともないし 見たこともないから迂闊も言えねぇけどもなぁ・・・・・・』




シルバーウィークとか云う サービス業に携わる者にとっては、却って傍迷惑なだけの時期も俺達は 日中は『無駄足覚悟の冷やかし』で 朝夕はバーチカルカットと ラージパッチの薬撒きに追われていた。
まぁ、こうして働いている分には 五月の連休に勝る渋滞とやらも関係ない。俺達若い衆わかいしは連日寮とコースを往復するだけの暮らしだったが、
「給料安いんだから こういう生活の方が無駄な金を使わなくって良いや」
sibakuroは相変わらずにたにた笑って言いやがった。
「そう言うなら給料少しは上げてくださいよ」
「偉くなれば上がる」
ここんち、、、、のキーパーなんかとんでもない安月給だって先代まえのが言ってましたよ」
「ぎゃふん」
......って、何処まで親爺なんだか判らん




「さぁ、どの辺で雨期に切り替わるかねぇ」
芝生のカルトsibafunokuroko”のお告げによると、最近は二月交替くらいで雨季と乾季がやってくるのだそうで『今は秋の乾期の盛りみたいなもんだ』そうなのだ。六月七月の あのどうしようもない時期は『閏月と雨期が重なっちゃった悲喜劇』なのだそうである。まぁ確かに八月も、九月もここまで大して降ってはいなければ そう云うこともあるのかも知れなかった.........ってか、こういう風に思うこと自体が 俺も相当に“芝生のカルトsibafunokuroko”に毒されつつあるのだと云うことの証左かも知れなかった。




それにしてもsibakuroの仕事の段取りというのは、先代まえとも先先代まえのまえのキーパーとも大きに違っていた。
確かにそれは、
『百のキーパーに百のやり方・・・・・・』
と云うカルト祓詞はらへのことばの その通りではあったが.........って、やっぱりsibatami 相当に洗脳されているみたいだ............




先代まえのキーパーの仕事?......ちょくに話したこともないし 見たこともないから迂闊も言えねぇけど、日報の段取り見ている限りは 一つ一つは悪くないと思うよ・・・・・・」




それは 去年の夏先代まえのキーパーがやらかした、、、、、グリーンの補修の爲に切り取られ、その後に砂を入れて播種した哀れなパッテンパッティンググリーンだった。
とにかく薬漬け肥料漬けで何とか芝は生えてはいるが、播種して一年もたたないうちにそこは苔と藻とカタビラの住処と化していた。
「これくらい面白い圃場はねぇな・・・・・・」
この 苔と藻とカタビラに占拠されたパッテンの 何が面白いんだか、相変わらずsibakuroはへらへらと笑って言った。
「ここだって 切っちゃう前は、数少ないそれなり、、、、だったんですよ・・・・・・」
話は そもそもここパッテンがこの為体に陥ってしまった元凶たる 先代まえのキーパーに及ばざるを得なかった。




「何人たりともオラの前は走らさねぇ」「って、いきなり目が吊り上がっちゃったよ(汗」
「だいたいさぁ、当代が褒められる事ってそうそうないんだよ。ハウスやメンバーはキーパーが代われば先代よりも良くなるはずだからって決めてかかっているだろ。おまけに奴等の生来しょうらいさがは“もっともっと”と“あれもこれも”だしな。先代は先代で往往にして『俺のやっていた時は・・・・・・』なんて 自分のたまたま良かっただけの時のことを 脳内でどんどん美化して物言うしな。部活の先輩が『俺達の時はもっと厳しかった』なんて云うのと一緒で、昔の苦労はどんどん大苦労にして 当代の苦労なんか屁でもないような事にしちまうしさぁ」
sibakuroは にたにたと笑いながら続けた。
「現場の人間だって『うちのキーパーは・・・・・・』『こんなやり方じゃぁ・・・・・・』そう云っている方がなんぼか樂じゃん。だろ? コース課コースの仕事なんかそんなもんなんだ。声高に駄目を云っている奴の中で より具体的且つ より実効的な代案や対案を持っている奴がどれだけいるんだろうね。なんでも反対の野党みたいな・・・・・・そう云えば 政権交代して、この先どうなる事やら、へっへっへ。与党に入れた責めを負って みんなこの先四年間は辛抱の暮らし、なんて真っ平だけどな。......まぁ いいや。どうせキーパーなんて総理大臣と一緒。任期中は『愚図だ』『駄目だ』『甘い』『下手だ』って云われて過ごすのが仕事なんだよ。むしろその方が仕事がしやすいやな。馬鹿の皮を被って 馬鹿踊りに興じてみせながら、どれだけ自分のはらを晒さないで具現化するか。支配人からもメンバーからも 業者からも 雑誌やらネットやらのメディアからも『あのキーパーは凄い』なんて云われて奉られちゃったら それこそ評価は下げられない 思うこともやりきれない、がんじがらみ、、、、、、になっちまって、後が大変だろ。下手にそんな看板背負わない方が、よっぽど面白い仕事が出来ると思うけどな」
.......って、そんな夜郎自大ずんべらぼう野放図ぞろっぺぇあんたsibakuroだけだろ、
「まぁ叱られ罵られるのも“順の零しじゅんのこぼし”ってやつだな。順順に 次代に次代にって、苦労も恩も送っていくもんなんだ」
......だから そんなこと云ってたら誰もキーパーなんてやりたくなくなっちゃうよ、




「よぉし、奴がピットインしているその間に・・・・・・」「って、ちがうちがう(苦笑 」
「さっき『先代まえのキーパーの仕事も 一つ一つは悪くない』って言ってましたよねぇ」
「うん?たとえばさぁ・・・・・・まぁ何でも譬えは良いんだけど、松花堂弁当みたいなものに 和洋中華の料理が入ってるって事、無いだろ。だいたい和食で収まってるじゃん。中華の弁当は中華、洋風なら洋風だべ。一つ一つの料理の美味い不味いもあるけど、弁当箱一個としてみた時に、いくら美味いものだって中華あれ洋食これも詰め込んだのはどうなんだ? って話だな」
「・・・・・・うーん?」
「和食だろうが、イタリアンだろうがフレンチだろうが、なんでも良いからね。俺はこれでって云うジャンル。云ってみれば骨太の方針があったのかなぁ?って云ってるの。その時時の目先の判断で 楽な方楽な方へと逃げを打って、その時に良いと思ったもの 業者にそそのかされたものを其の場限りで放り込んだって、それはその時のものでしかないだろ。芋のお煮染め喰って、エビチリ喰って、ハンバーグ喰って、味噌汁呑んで・・・・・・って、あんまり美味そうな感じしないっしょ。まぁ それが楽しいって人もいるかも知れない。それこそ 百人の百色のそれぞれだから どうでも良いんだけどな」
「バイキングなんかでも 欲張りすぎると、何食べたか判らなくなっちゃいますよねぇ・・・・・・」
「たとえばグリーンなんかでもな『今年は透水性の確保についてはこの方針』ってものがあれば、春から始まってそのシーズンの仕事ってだいたい決まっちゃうんだよ。薬や肥料や砂の粒径までが決まっちゃうって言って良い位なんだよね。それをシーズン入ってから目先の仕事に追われ続けて はたと気が付いたら水が抜けないから はい浸透剤・・・・・・みたいな管理だとどうなんですか?って」
「そう云えば浸透剤とか嫌いですよねぇ」
「嫌いって訳でもないんだけどさ。成長抑制剤なんかも含めてね、半分は生理的に受け容れない部分で使わないんだけど、要はsibatamiが組み立てる段取りには 馴染まないんだな。でも 別に他人様に向かって ケミカルは使っちゃぁいけないとは云ってないだろ。そりゃぁ急場凌ぎで使わざるを得ないこともあるだろうけどさ、どうせ高い金払って浸透剤や成長抑制剤を使うなら 場当たり的に使うんじゃぁなくて、きちんと三日三月三年先までを想って 又そこから戻って組み立てた体系の中で使うべきでないの。去年はケミカル、今年は更新作業、さぁ来年は・・・・・・?なんて仕事で良いのかね?良いものは良いとして、でも自分の体系に入らないものは外しておく。新しい資材や知見は貪欲に吸収しながら、でも 自分の体系に沿わないものは取り入れない。それはそれ これはこれで事に当たらないと、何でもかんでも 良いと思ったものを片っ端から注ぎ込んでいたら 何かあった時に何が悪かったんだか判らなかったり、上手くいったって何が良かったのか分からなかったり。まぁ その辺もサブの時に勉強して、自分なりのテーマを見つけておかないとねぇ。熱心で勤勉なのと 定見の有る無しとは また全然別の次元の話だからねぇ・・・・・・」




「あとはなぁ“拘っても良いけど囚われるな”って、前に言ったっけ?」




奴は『良い圃場だ』と笑ったパッテンパッティンググリーンのカタビラを抜きながら言った。
「人が失敗しくじりの芽を摘み逃す時って 大概 拘りが囚われになった時なんだ。それが先入観だったり 固定観念だったり、意地だったりな。そう云ったものが この仕事、時として大きに悪さをするんだ。『心を何処に置かふぞ』って奴だ。抜き身を握って向かい合った相手の 何処に心を置けば斬られないのか って有名な奴な」
......あんたカルトの中では有名でも sibatamiにそんな理屈の解るはずもなかった。
「・・・・・・いててて、まぁ 先代まえのキーパーに会うこともないだろうけどねぇ。ここんち、、、、じゃぁ結構苦労してたんでないのかえ」
話にも 草を抜くにも飽きたのだろう。まるきり年寄りの様な仕種で膝と腰を伸ばすと、sibakuroは軽くびっこを引くようにして歩き出していた。
「まぁ、sibakuroなんかも散散さんざ失敗しくじっては 金も時間も無闇に無駄遣いした挙げ句に やっと気が付いた事だしねぇ。案外とこれも教わることでなくて自分で気付かなきゃぁいけない理合わけあいの一つなんだろうな。いわゆる通過儀礼ってのかも知れないなぁ・・・・・・どっちにしろsibakuro口上手くちじょうずの商い素下手すべたくち、、だから、言うことの逐一ちくいつを気に病みなさんな」
......って、もう 言ってることすら意味不明なんですが――――――――




この項 さらに続く............ 




2009.10月号 36.かちかち山の狸sibafunokurokoは 不渡りに眠れぬ夜を過ごすか より付録の四つ目

ちょっとヒステリックかなと思いつつの原稿打ちでしたが、あがってみたらそんなでもありませんでしたか

そう云えば サブタイトルが どんどん長くなっちゃってますねぇ。サブタイトルだけで内容が知れちゃうのもどうかと思いますが、サブタイトルが長いばっかりでなんだか解らないのも問題かも知れませんが(すいませんすいません