36-3.『芝の痒いところに手が届いたら』って 自分で云うか..........
36-3.『芝の痒いところに手が届いたらキーパーなんか要らないんだろうなぁ』って 自分で云うか............
《前回を御覧でない方はこちらから............》
「あれだなぁ・・・・・・バンカーの砂の面にもコンターとか アンジュレーションの意識を持って砂を均してもらわねぇと、折角エッジを切り上げて 砂を擦りつけてもらっても 景色としてなんだか妙な具合になっちまうんだなぁ・・・・・・」
いよいよ バーチカルカッターがグリーンの上に乗っかって芝を切り始めようかと云うその時に、奴は向こうのバンカーを指して そんな呑気なことを口にしていた。
「良いですね?ユニット下ろしちゃいますよ」
バーチを着けたトラクターのオペは いつになく硬い顔をした馬さんだった。
奴は 勉強はからきし駄目だが こう云うのに乗らせると滅法 勘が良かったんだが、初めての仕事とあっては流石にビビっていた。
バーチカルカットと云うのは 一口に云うとこんな作業だ.......って説明を、
そう云った俺達に、奴は呆れたように言った。
「そんなもん、ゴルフマネジメントや The Greenkeeper 2009でも読めばいいだろ。それかネットで検索するんだなぁ。ネットの検索って モロとか丸見えとか “浅尾美和 & ポロリ”だけじゃぁないんだよ・・・・・・」
sibakuroの バーチカルカットの(かなり私的な趣味に偏った)解説
補足(1)
補足(2)
補足(おまけ)
sibakuroの バーチカルカットの(かなり私的な趣味に偏った)解説その2(動画数点あります)
「でもなぁ、お前 ネットの情報を鵜呑みにするなよ。鵜呑みにすると とんでもない棘があったりするからね・・・・・・」
......相変わらず 奴は意味ありげに笑っているだけなんだが、それはあんたが自分で書きながら企んでいることじゃぁないのかね、
「......ってか、こんなところにリンク張ったって 手繰ってくれる物好きなんか万に一人だ」
そう云って奴は、今度は唖唖と笑って見せた。
「馬公 前方クリア〜 行けぇ」
そう行ったキーパーの言葉に、
「馬公 行きまぁ〜す」
馬さん 恐る恐るバーチのユニットを下ろしながら進み始めた............
そう云えば、俺達の目の前で 凄まじい量の床砂と芝の残渣を掻き出している その機械は、先先代のキーパーが隨分と意気込んで買ったは良いが いざ一ホールやってみては そのいかい手間のかかりようにうんざりしてしまい たちどころにお蔵入りの憂き目。爾来死蔵されたまま ここに至ったと云う代物だった。
で、先代のキーパーに至っては バーチカルカットどころか コアリングすら面倒くさがってやりたがらなかった。
「今は抜かないで ケミカルや土改剤で作るのが大勢だから・・・・・・」
そう言って やっていたことはしかし、これと云った方針でもあってそうしていたのではなく、ただ単に手間をかけたくないから、その方が格好良くて汚れなくて手っ取り早い と云うことだけであった。
もっともそう云う管理は相応に金がかかる。
銀行上がりのけちな支配人に叱られ叱られ 何とか金を出して貰って、しかし それで先代が結果を出せていたかと云えば、奴の在任中はお盆の盛りを過ぎた頃には 焼けたり融けたり 擦り切れたりでグリーンはもうヨレヨレのヤレヤレになっているのが毎年のことだった。
そうして悪夢のような夏と秋を何年も重ねて、 先代のキーパー生命に止めを刺したのは、去年の今頃の あの為体だった。流石に堪忍袋の緒が切れた常務や支配人、競技委員会 ハウス委員会からこっ酷く叱り付けられ、メンバーからビジターからのべつ苦情を受け続けるフロントやレストランやマスター室からも突き上げられ、なお ネット予約のカキコも散散な評価であった。
なけなしのナセリをあえなく使い切り、業者に泣き付いて買い込んだ相当量のベントをも使い切り、なお足りない分はパッティンググリーンの芝を移植して、ようやくに
で、まぁ 俺達がグリーンの補修に追われていたその間、他の仕事の手が抜けてしまっていたれば その頃にはコースは病気と 雑草と、害虫の食害に塗れており......それを又 常務や支配人、競技委員会 ハウス委員会にひっ叱られ、メンバーやビジターから苦情を受け続けるフロントやレストランやマスター室からなお一層の突き上げをくらい、糅てて加えて ネット予約のカキコも輪をかけて散散な評価.........と云う、恐ろしいまでの悪循環に先代呑み込まれてしまっていた............
そうして完全に戦意喪失したままに年を越した先代は、以降 あらゆる伝手を辿って逃亡先のコースを探したが果たせず、ついに年度が改まって シーズンを直前にしたある日 突然ブチ切れては、
「こんな貧乏コースは真っ平だ。金と人がちゃんと使えれば 俺はもっと良いコースが作れるんだ」
と云う蓋し至言......もっともな捨て台詞を残して
さぁ、昔話はもういいや、
「まぁ、こんなもんでいいのか・・・・・・」
なんだかあっけないくらい簡単に 作業の深さが決まってしまっていた。。
まぁ セッティングが決まれば 後はひたすらに段取りをこなすだけだったが、それにしてもバーチカルカットと云うのは 想像以上に手間のかかる面倒くさい仕事だった。
この先を思い遣るに 今からうんざりしてしまっている俺の目の前で 奴は機械が掻き出した砂と芝の残渣の混じった滓を握ったり 指で磨り潰したり 匂いを嗅いだりしては ご満悦の呈で歩き回っていた。
「グリーンに秋のバーチカルカットって あんまし聞きませんけど・・・・・・」
「秋のバーチ?やっちゃぁ駄目ってお約束なんか無いだろ。俺なんかバーチ大好きだからね。春は深め、出来ればダブル。秋は浅めで、もし必要なら刃数を減らしてでも やりたい口だねぇ。秋のバーチで横根が出ると 上に載った時のしっかり感が凄い良くでるのと、春先の芽出しの勢いが違うんだなぁ。
なんだか ごにょごにょ言いながら行っちまった奴だった。
九月は打って変わって良いお天気の日が続いた。
俺達は 日中はグリーンの手散水に追われ、朝夕はグリーンのバーチカルカットに奔走した。
「流石にこれだけ乾期が続くと そろそろ雨期が来るんじゃぁねぇのかな」
“芝生のカルト”の神様のお告げがあったようで、途中からはそれにラージパッチの防除の段取りも加わって、それこそ俺達はてんやわんやで駆けずり回らなければならなかったが、それでもそこは二十七ホールの強み。
お客さんがそこそこの入りの日には、アウトインと“おまけ”の何処かの九ホールが午後も早くからは空く様に。それは奴がフロントとマスター室に依頼して 調整させていた結果でもあった。
「たかだか十八ホール。精精二十七ホールなんだから、支配人とマスターと話をしながらやれば 何とかなるんだよ」
奴は そう笑っていたが、
しかしそれは違う。
ある時、俺は奴がマスター室で
「今日さぁ、午後からインコースの仕事ができないと 週末までに切り良く終わらないんだよねぇ。土日にお客さんからクレームが来るかも知れないけど、それでも良い?まぁ、何かあったら俺が謝りに出るけどさぁ・・・・・・」
......と云うそれは、話をするとか 交渉するとか 依頼しているんでなくて、暗に恫喝しているんだよね。可哀相にスタート係の兄ちゃんは脅され 娘っ子はすかされては、お客さんを必死に振り分けている有り様だった。
「悪いねぇ、無理矢理“おまけ”に振って貰っちゃって・・・・・・」
ある時そう愛想笑いそして見せた俺に、スタート係の兄ちゃん、事も無げに言った。
「ああぁ、全然大丈夫ですよ。むしろコースから はっきりそう云って貰えた方がお客さんにも『コースの整備があるから』って話もしやすいし。俺達もアウトイン“おまけ”の三つにお客さんバラしちゃうよりも 何処か二つに絞った方がよっぽど仕事が効率的だったりしますから」
へぇ......
あんまり意外な答えでもあった。
もしかして奴はとんでもない悪運の持ち主なのかも知れなかった――――――――
2009.10月号 36.かちかち山の狸は 不渡りに眠れぬ夜を過ごすか より付録の三つ目 さぁ ろくに手控えも取らないでお話を続けていますから そろそろ前後の辻褄が合わなくなり始めていないか、今更に不安だ(笑 いくらファンタジーと云ってもねぇ......まぁ 御覧の皆さんが読み流して下さることを祈りながら............ ってか 書かないとならないものが(汗 |