35-6.『降っても照ってもありがたく拝めば良いんだ』そうですよ.....
《前回を御覧でない方はこちらから............》
「............あのな『この秋は 雨か嵐か知らねども その人の業の草刈りをする』って云うんだ」
......まぁた始まったよ。そうして人を煙に撒こうとしているんだ、
なんて思った俺に 奴は頓着無く続けた。
「あとは『草を見たら抜け』とかな。禅語とか、禅宗の御坊のお言葉って、案外コース課の仕事に照らしても分かりやすかったりするんだな」
って、あたしゃぁ あんたと 一休さんごっこをする気はありませんが............
「で、馬公がノイローゼ気味だってかえ?」
「そうそう そうなんすよ。あれ、危ないっすよ。下手すると鬱とか自閉症とか・・・・・・」
「てか、お前らが 玩具にしすぎたんだろ。あいつの前でわざと 勉強だのセミナーだの講習だの 資格試験だのって話題にして、食堂の机の上や 昼寝の枕の上にゴルフマネジメントやThe Greenkeeper2009とか大改訂版芝生管理用語辞典とか置いといただろ・・・・・・」
......って、ばれてましたか――――――――
例によってソファに寝転がってうつうつとしていたのを さも大儀そうにその身を起こした奴だった。
「まず大前提が、答えは全て目の前のコースにあるって事で、勉強するってのはその答えを見つけ出すために 選別したり 篩にかけたりする方法や技術を身につけるって事だろ。余所のコースに遊びに行って握りにうつつを抜かしたり、セミナーや講習会に出かけて お昼の しょぼい松花堂弁当喰って パンフやらボールペンやら貰って帰りにビール飲んで帰ってくるのが勉強だと思ったら、そんなの大甘三太郎」
「ってことは、セミナーとか視察なんか行かなくって良いって事ですか?」
「そりゃぁ 行かねぇより 行ったが良いは掃部頭の赤備」
「お願いだから、普通の言葉で話しましょうよ・・・・・・」
「最近のハードディスクって、すごい大容量じゃん。一テラバイトとか、二テラもあるのかね?」
.........な、何を言い出すんだか、
「あれにな、夜な夜な漁った 気持ち良い動画や画像を片っ端から保存していくんだ。でも 貯めても貯めてもまだ余裕があるんだな。何せ相手は一兆バイトだ。ゼロが十二個の世界だな。さぁ、毎晩毎晩 貯めて貯めて貯め込んで、ある日ふと気が付くんだ。男の子が我に返って 一つ大人になる瞬間だ。『ちょっと待て、俺ってこれだけの動画や画像を貯め込んでおいても、最新のものをおかずにしても、最後の締めにするのは何時も同じあれじゃないか・・・・・・」ってな」
............って、その台詞の俺の って ルビ外して下さいよ、
「よくさぁ『引き出しの数を増やしておいて』なんて言うわね。でもな、それってインテリジェンスとインフォメーションって横文字に置き換えると、もう少し深く考えないと駄目だって事が判るんだ。咀嚼して反芻して消化して自分の血肉として活かせるものがインテリジェンス。脂肪として溜め込むだけならただのインフォメーション。インフォメーションを蓄積しているだけなら、セミナーも視察もただの物見遊山でしかないだろ・・・・・・解かんないかなぁ。ハードディスクに貯め込んでいるだけなら、引き出しにしまい込んでいるだけなら、それはただの情報の欠片に過ぎないって事さね。おかずに出来たり 引き出しから自在に出したり引っ込めたりして 道具として使えるようになって始めてその情報が活性化するんだ。云ってみれば 知識と智慧だな。知っているだけじゃぁ 駄目。生きるために使えないとな・・・・・・・・・・・・」
う〜ん......もしかして案外真っ当なことを言っているのかも知れなかったが、しかしこの人が口にすると 高僧の言葉ですら胡散臭くなってしまう様だった............
「たとえばな、入場者数でも売上でも、気温や施肥もみんな同じ。表計算のソフトに打ち込んでグラフに出来るようなものはまだインフォメーション。そこから現場にフィードバックできる発想や文言がインテリジェンスなんだ。百人一首だ 古今和歌集だ万葉集だを丸暗記して、さぁ 一句捻って見せましょか、って。なんか出てくると思うかえ?」
なんだって今日は奴の口は良く回る様だった............
「たとえばね。目の前で日熱喰って色の変わっちゃった芝に『お前 セオリーだと夕方まで水やっちゃぁいけないんだから、日が落ちるまで精精我慢しておくれよ』なんて悠長言ってられるか? 犬が日陰にひっくり返って身悶えている様な炎天下に萎びちゃってる芝に、理屈や理論の如何を問わず どうやって水をくれてやるのか。どうやって生き延びさせてやるのか。その答えって、セミナーや余所のコースに求められるのか?・・・・・・そんなもんねぇだろ。まずは目の前の芝を見て 自分の知識や経験を総動員して、セミナーで聞いたことや余所さんのやっていることを参考にして答えを出すしかないだろ。その漸くに捻繰り出した答えと その成否の積み重ねこそが本当の“引き出し”でありインテリジェンスや 智慧になるんだよ」
「って、結局俺達って セミナーとか余所のコースに行かなくっても・・・・・・」
「だ か ら ぁ 行かないよりは行った方が良いって言ってるだろ。行かなくて良いのは銀行の取り付け騒ぎと スーパーのトイレットペーパーの安売りくらいのもんだろ」
「うーん・・・・・・」
「たとえばな、余所のキーパーとか コンサルの先生が 自分の成功した方法をやってみろって言うわけだ。そう云う人って、ここの事情や環境や これまでの経緯を知ってか知らずか『これをやれば絶対だ』って言うけど、コースの仕事に絶対ってあるのか?そこでその人が成功した方法が 絶対にここでも成功するのか?言っている人に何の根拠があるんだか知らん。もしそれで失敗った時に、その人はどういう責任を取るつもりなんだか、その
「もしかして 勢いに任せて もの凄く過激なことを言ってませんか?」
「だからそこで 言う方 聞く方のインフォメーションとインテリジェンスの差が出るって言ってるのよ。判っている人たちは大概『うちはこれで こう云う結果が出たけど、でもね・・・・・・』って 祓詞が着いてくるわな。・・・・・・あのね、キーパーに必要なのって 感だって言ったよな。あとは想像力なんだ。まぁ、そも それもひっくるめて“感働き”って使い方したいんだけど、まぁ 良いや。でな、今の状況から 三日三月三年先にどうなっているのかを想像する力、直感する力。・・・・・・良くあるんだけど、こっちが一生懸命『来年の春先がヤバイ』って言っても ハウスの連中には解らないんだ。『うちのキーパー、また大騒ぎしている』とか『そんなこと言って今から予防線張ってるのか? それとも何かおねだりかな?』くらいにしかとってくれないんだ。まぁ、そう云う訓練もしていなければ そう云う意識もないんだからしょうがないわな。まぁ、それも置いといて。コースを見て、この状況だとこうなる・・・・・・って想像 直感する力。それを回避するために 今から何をすればいいのかを組み立てて、その仕事の結果を想像 構成する力。そう云うのを養うのが 本当の勉強だろ。その為の引き出しを増やす意識も無しに お友達グループで賭けゴルフをしに余所に行ったって、帰りのビールを愉しみにセミナーや講習に行ったって 何のインテリジェンスも身につかねぇだろ」
「うーん、なんだかなぁ。インテリジェンスって、横文字で言うのがなんだか却って話を判りにくくしている様な気がしますけどもねぇ・・・・・・」
「そうなんだよね。実はそこが悩みの種でさぁ、本当は知識と智慧って言いたいんだけどね。自分としては 知識と智慧だと なんだかしっくり来ないんだよねぇ。しょうがねぇから横文字で 誑かしている部分はあるよねぇ」
「御覧の方方からは『例によって煙に撒いている』なんて言われそうですよねぇ」
「ある意味で信用問題なんだけどなぁ」
......って、端から信用なんてものが あんたにあるわけ無いだろうに――――――――
「信用問題って言えば『今年は六月と七月に閏月が挟まっているから・・・・・・』ってハウスでも言ってたんですよね。あれ、支配人なんかが『今度のキーパーは大丈夫か?』って大分危ぶんでいたみたいですよ」
「わはは、知ってる知ってる。あの辺りでsibakuroのっけから信用失いました。まぁ、どうせ閏月の件なんか疾うに忘れちゃって『あいつは怪しい』ってイメージだけ残ったなら、それはそれで作戦も第一段階は上の口だな」
「その閏月がなんたらも インテリジェンスですか?」
「まぁ “芝生のカルト”の口だわなぁ」
......しまった ばれちゃってたのか(汗
「ま 実際今年は 閏月のせいで梅雨が滅茶苦茶だったけど、これで冬はどうかねぇ・・・・・・」
流石にその辺は“芝生のカルト”でも判らないんだろうかね。
何にしてもソファに身を沈めっぱなしの奴の、ペラは良く回る癖に 大儀そうなことと云ったら無かった。
顧問さんが 何でこんな壊れかけを
「まぁ、どうせ降る時は降るし 降らねぇ時には降らねぇんだし。一年通じてみれば 大概の帳尻は合っちゃうしなぁ。『雪は豊年の貢ぎ』って云うくらいだから、降ったら降ったでお天道様拝んでいれば良いやな」
「そんなことをハウスに行って口にしたら あの支配人に張り倒されますよ」
「ああぁ あれなぁ、あの支配人さんなぁ。ひっひっひっ『慾深き人の心と降る雪は 積もるにつれて 道を忘るる』ってな。道を忘れない様に、分を辨えることを忘れない様に、民さんももっと勉強しねぇとな」
そう云って奴は机の上に山と積まれた紙くずの中から一枚のコピーを探し出すと俺に突き出して寄こした。
それは、馬さんが散散に行くのを渋っていた肥料屋さんのセミナーの案内状だった。
「まぁお前さんが一緒なら 馬公の血圧も少しは下がるだろ。馬公に言っておきな。今回の通訳さんが業界筋でも評判の、駅前の歯医者さん裸足の 良い年増だからって・・・・・・」
年増 (゚▽゚#)キタァ――――――――
......って、また俺達はこの人に乗せられているのかも知れなかった............
この項 漸く終わり(笑............
2009.9月号 35.虫歯を突けば君子の出ずるより付録の六つ目でようやく一段落(苦笑 次回からは 十月号がお題になりますが、ちょと一休み そろそろ本編の十二月号のネタ拾いの時期であったりもします ちなみに こうしてだらだら書き散らかすよりも、枚数の決まった本編の方が余程に手間も時間もかかっていますし、もちろん気合いが違います(あたりまえ・笑 |