34-5.『そうすりゃ オイラが楽できら』ってか............


sibafunokuroko's website仰峰閑話second season
グリーンキーパーの野帳付録spin off



《前回を御覧でない方はこちらから............》
(グリーンの補修中) おっ、精が出るなぁ、  「・・・・・・・・・」





『 でへへへへへ・・・・・・ 』 な 何でそんなにご機嫌なのさ(汗
「だから 炙った烏賊とか 従姉妹のお姉ぇさんのどぎまぎ、、、、とかでなくてね・・・・・・・・・」


「なぁんだ。これから良いところだったのに。お前sibatami本当に艶っ気つやっけないよなぁ」
だぁ かぁ らぁ、sibatamiあんたsibakuroと色気のある話がしたくてここにいるわけじゃぁ無いのよぉ............




よっこらしょ・・・・・・・・・
心底大儀そうに立っては 机の上に置いてあった急須に湯を注いで湯飲みにお茶を淹れると、sibakuroは今度は自分の机の椅子にどっかり腰を落とした。
さすがにソファにも寝飽きたのかもしれなかった。
出来ればsibatamiも 出涸らしで良いからお茶なりと欲しかったが 小母さんとお姉ぇさんの中間の、年齢だけは年増の部類の事務のおばねぇちゃん、、、、、、、。年齢だけ、、は 俺のストライクゾーンだが、どうにもその年に不相応な若作りと 総務おれのマドンナに対する剥き出しの敵愾心とが相まって どうにも食指の動かない事務員さんは有休でお休みだった。
なんでも 彼氏と温泉にお泊まりでぇと(はぁと......) なんだそうだ(あぁ 馬鹿らしい......)
昨日事務所の電話で 長長とそんな話を誰を相手にしていたんだか............





「で、何の話だっけ?」
自分で散散ねた、、にしておきながら 実は当の本人 相当に気に病んでいるらしい、一足ひとあし二足ふたあしも早く...... いや足の数なら百足むかでとか蚰蜒げじげじ.........いや ともかくあんまし早くに秋の様相を深めつつあるそのおつむ、、、をぽりぽりと掻きながら、奴はあくび混じりに言った。
もしかして このひとsibakuroは、戦術的にとぼけているのではなくて 本当に今の今あったことですらも忘れちまっているのかも知れない............
なんだか背中に冷たいものを感じたsibatamiであったりもしたんだが、いや そろそろ答を出して貰わないと話が次の回に進めなかったりもするんだな、




「そうかそうか。単肥だった、たんぴたんぴ・・・・・・」
ぞろぞろとお茶を啜ると、sibakuroはもっと深くに椅子に沈み込んだ。ぎぃと悲鳴を上げた椅子の上で、何の気なしに触ったら その指が探り当ててしまった耳毛を抜こうと、しきりにそれを摘んで引っ張りながら.........
「単肥の原体験な。・・・・・・あのさ、原体験て本当は 子供が両親のよ・・・・・・」
「与太話は後でいくらでも聞かせて貰いますから、単肥の原体験からやっつけちゃって下さいよ・・・・・・」
sibatami、そうまでしてこの人の話を聞く必要があるんだろうか。果たして ちゃんとした話が聞けるんだろうか.........
一抹ならぬ不安を感じながら、しかしなんだか ここでひいては男が廃るような気持ちになっていた。




「昔さぁ、sibakuroがまだ余所のコースコース課若ぇ衆わけぇしだった頃な・・・・・・」
「ちゃんと、単肥の原体験ですよ」
「話の鼻先折るんじゃぁないよ・・・・・・」




お前ら それとなく俺を避けてるだろ、 「・・・・・・(はじまった・汗」




――――――――それはその昔、sibakuroがまだ余所のコースコース課若い衆わかいしだった頃のことだそうだ。




若い衆わかいしと云っても sibakuroが最年少で その上はもう三十半ばの小父さん達ばっかりで、sibakuro若い衆わかいしという名の 体の良い小間使いだった頃のこと。
ひとかたならぬ野っ原のっぱらで戦車やジープなんかに乗って走り回るのがその生涯一筋と決めたが生業なりわいで 所帯構えてこの方意地が舎利にも世間様に恥ずかしくないようにと女房子供を養ってきたってご立派な御仁が いともめでたく定年で退官しては 中途採用でそのコースコース課に入ってきた。この小父さん、キーパーやサブキーパーの指示には絶対的な盲従を示したが、息子のような歳のsibakuroの云うことを聞くのが 定年まで勤め上げた元国家公務員の沽券に係わるらしく、入社したはなからsibakuroを小馬鹿にしていては 言うことなんか聞きやしなかった。
その日の段取りは 法面しゃめんの肥料撒きだった。
当時そのコースコース課では動力撒布機どーさんなどは使われていなかったので、法面の施肥には箱箕はこみを肩から提げて手で均一に撒布しなければならなかった。
その段取りの相方を見て sibakuroはキーパーに直訴した。
「あの小父さんは勘弁して下さいよ。sibakuro責任とれねぇっすよ」
「責任って、ぺぇ〜ぺぇ〜のお前sibakuroが何の責任取るのよ」
「だって 絶対ぇぶちになって後で叱られちゃうもん。あの小父さんと行くくらいだったら 俺独りで良いっす」
「馬鹿野郎っ、手前ぇ 何時からそんなに偉くなったんだ」
そう云いながら、実を言えば入社してたちまちの内に コースの誰しもが件の元戦車屋さんを持て余してしまっており、今日の段取りなどは体良く厄介払いをしただけ、と云うのがありありとしていた。
『お〜い、sibakuroぉ〜。しょろしょろしてんな、出かけるぞぉ』
管理棟の外からは、小父さんの 舞い上がっただみ、、声が聞こえてくる。見遣れば 軽トラックの運転席から身を乗り出してがなっているではないか。
「ほれ、親方が呼んでいるぞ」
キーパーがからかうように言った。
「ちゃんとぶちにならないように 小父さんに撒き方教えるんだぞ」
「へぇいへい。言うだけのことは言いましょうよ・・・・・・・・・」
そうして sibakuro、矢鱈に意気軒昂なその小父さんに連れられて その現場に出かけたものだ。




現場は、そのコースではあまり評判の良くない両側を法面を抱えた ドッグレッグのホールだった。
コースドッグレッグの角のところの 法面の上の数枚の芝畑さえなければ、もう少しましなレイアウトになるだろうに............
誰しもがそう思うような そのいたく目障りな芝畑は、用地の確保の際に臍を曲げた地主が『金輪際ゴルフ場とは話をしねぇ』と言っては、ついに取得できぬままに終わった 曰く付きの畑だった。
「いや だからさぁ、その撒き方じゃぁ化成がむらになっちゃうから。後で芝がぶちになっちゃって、直せねぇんだからさぁ・・・・・・」
元国家公務員の小父さんの 節分の豆撒きのような、あまりにいい加減な肥料の撒き方にsibakuroが何度も口を鋏んだが、
「いや、儂は大丈夫」
小父さん 頑として、仕舞いには外方そっぽを向いて言うことを聞こうとしなかった。
「じゃぁsibakuro、あっちの法に撒くから」
呆れたのと厭気がさしたのと、鼻歌交じりに化成肥料を投げ続ける小父さんを置いて sibakuroは肥料袋と箱箕を肩に そのホールの反対側の法面に徒上かちあがっていった。
法の芝を踏みしめて上り詰めれば、件の 曰くの着いた芝畑がその目の前にあった。
そこでは破れかけた麦藁帽子を被った日に焼け尽くした老人が 洗い晒した白いランニングシャツの脇に肥料の袋を抱え、それを素手に握っては芝に振り撒いていた。
sibakuroの目にもその老人の手際は それはそれは美事の限りであった。




遊っそぼうよぉ、ねぇねぇ・・・・・・  「・・・・・・(しつこい・汗」
「おっちゃん上手いなぁ」
思わず感嘆の声を上げたsibakuroに、老人は無愛想に言った。
「何だ、ゴルフ場か。何しに来た」
「キーパーが そこの法に肥料撒けってさ」
「キーパー?・・・・・・あの洟垂れ小僧がか?」
sibakuroがその場に下ろした 芝用をうたう化成肥料に目をやると 老人はさも馬鹿にしたように鼻で嗤った。そうして、フェアウエイの向こうの法で 遠目にも得意げに肥料を投げている元迷彩服を指差して面白そうに言った。
「なんだありゃぁ。鳥の餌でも撒いてんのか」
「・・・・・・・・・」
悲しそうに、困ったように首を振ったsibakuroに、老人 揉みくしゃにして伸ばした渋紙のようなその相貌を にたり笑み崩していた。
「おっちゃん。何撒いているん?」
「これか?尿素だ」
へぇ・・・・・・
覗き込んだsibakuroの目に、緑色のビニール袋の中の尿素それは 蠱惑的なまでに白くきらきらしていた。




『駄目だよそんな撒き方じゃぁ』
突如コースに響いたのは、キーパーの怒鳴り声だった。
どうやら法面の施肥の段取りを組んで その相方を嫌がるsibakuroを無理矢理出掛けさせたは良いが、自分でも流石に心配になって見に来たらしい。
来てみたは良いが、元国家公務員の小父さんの節分の豆撒きさながらに乱暴な撒き方を目の当たりにしたキーパーは周章し激高していた。
『いや、いや儂は・・・・・・』
小父さんのだみ声も キーパーに負けずに大きかったが、
『sibakuroはどうしたの?sibakuroに撒き方を教わらなかったのかよ』
『いや儂は大丈夫』
『大丈夫じゃぁねぇだろぉよぉ!』
振り返ったキーパー。sibakuroが反対側の芝畑で 件の曰く付きの老人と立っているのを見て 彼を呼ぶのを諦めると、小父さんの箱箕を引っ手繰っては自ら撒き方の指導を始めていた。
「ほれ、お前ぇsibakuroもさっさと肥やし撒かねぇと あの洟垂れ小僧キーパーに どやしつけられるど・・・・・・」
半ば面白そうに 半ば呆れたように呟いて、老人は また尿素を蒔き始めた。
老人の手から舞う尿素の粒は、改めて見惚れるほどに綺麗な孤を描いていた。




翌日は 終日雨だった。
朝から快晴となったその次の日。老人の芝畑の芝は早くも青みを増しており、更にその翌日には明らかにざわざわとした成育を こっそりと覗きに行ったsibakuroの目に予感させていた。
尿素って凄いっすねぇ」
sibakuroの言葉をキーパーは一笑に付しては言った。
尿素ぉ?・・・・・・ばぁか。尿素なんてのは百姓の肥やしだ」
確か芝用の肥料袋に『何とかの原料・尿素』って、書いてなかったか.........?
それにsibakuroが芝用の肥料を撒いた法って、まだ色出てないだろ.........
腑に落ちないままに 刈込に出かけたsibakuroであった――――――――




「・・・・・・でな、それからもう二日くらいしてさぁ。そん時のホールが大問題になったんだ」
sibakuroは ぎぃぎぃ軋む椅子の上で、もう一口お茶を啜った。
「元国家公務員さんが肥料撒いた法面が美事なゼブラになっちゃってな、それがまたティから見て真っ向正面の法だったんだ」
その話の そのコースのそのホールこそは知らないが、最早それがどんな惨状であるかくらいは sibatamiにも容易に想像できた。
「そしたら 元戦車屋さん『いや あれは儂が撒いたところじゃぁない』とか平気で言いやがるしよぉ」
「もしかしてそれ、先に言ったもん勝ちですか」
「いやぁ、もうその頃は誰も小父さんの言うことをまともに取り合う奴なんか一人もいなくてね。それだから なお小父さん必死だったんだけどさぁ。それとは別に・・・・・・キーパーが俺を呼んで言うんだよ。『お前sibakuro、化成一俵担いで行って、あのゼブラの色の薄いところに撒いて ぶちを消してこい』ってさぁ」
「行ったんですか?」
「行ったよ。行かねぇとぶん殴られるんだもん」
「消せたんですか?」
「そんなん 消せるわけねぇだろ。二色のぶちを三色のぶちにしちゃって、キーパーから『このド下手』って散散に罵られて、みんなから 良い様に嗤われてよぉ・・・・・・」
よっこらしょ・・・・・・・・・
sibakuroはようやくに椅子から立ち上がると また湯飲みにお茶を注いだ。
何となくではあったが、sibatamiにはこのひとsibakuroが単肥に拘るその理由わけよりも このひとsibakuroの人格が 何故なにゆえ今のこのようになってしまったのかの その一端を、僅か乍らにも伺い知れていたような、そんな惨めな気分になっていた。




で、キーパーibakuro 耳毛は抜けましたかえ――――――――




............この項 終り





2009.8月号 34.みんな顔と看板で生きているのです より付録spinoffの五つ目です。

何とか丸められたかな。
 
ええぇと このエピソードで本当に笑える人ってのは、誰だろう・・・・・・



次回は 2009.9月号 35.虫歯をつつけば君子のずるより............