34-1.『教えるよりも慣れさせちまえば良い』んだって............


sibafunokuroko's website仰峰閑話second season
グリーンキーパーの野帳付録spin off




「ぅわぁ〜 やらかしちまったぁ〜」 ま、まだ止めないで。何枚か写真押さえてから.........





『 はらへったぁ〜〜〜〜〜 』
「な・・・・・・なんだこりゃ・・・・・・」
新任のキーパーsibakuro 着任して先ず覗いたのが肥料倉庫と薬剤倉庫だった。そうして ほとんど空っぽの薬剤倉庫や肥料倉庫を改めるや 嬉嬉としてあちこちに電話を掛けまくっていたと思ったら、翌日から それこそ肥料屋のトラックがひっきりなしにやってきて荷物を置いては去っていった。
何せ先代まえキーパーぼんくらが昨年の夏にも、、グリーンをやらかし、、、、やがって、支配人やメンバーから大目玉をくらって戦意を喪失して以降 ろくに買い物もしていなかったので倉庫はほとんど空っぽだったから、新任のキーパーsibakuroが着任して早早に肥料薬剤を買い込むのももっともだとは思われたのだが――――――――




さぁ、今度のキーパー買い込んだ物と云ったら、尿素 硫酸カリ 燐酸第一カリに ブドウ糖クエン酸の業務用の25キロの袋だの 成分がギ酸カルシュウムとか云う怪しげな肥料、何とかFeとか何とかCuと云った 農業用の金属資材。それになんだか哀しいくらいに安っぽい野菜の絵の描かれたラベルの液肥のキュービテナー.........
要するに 俺達の目の前に山を成した資材に“芝”の文字が見あたらないんですがね、
「あのぉ〜」
おそるおそるキーパーsibakuroにその件を訪ねたsibatamiに、sibakuroは笑ってこう言いやがった。
『肥料にくっついている“芝”の文字なんか飾りなんです。金持ちのキーパーにはそれがわからんのですよ』
思わず『気に入らんな』と云う言葉を呑み込んだsibatamiに、sibakuroはこう被せてきやがった。
『大丈夫。お前らなら上手くやれるさ・・・・・・』




何だって それからが大変だった。
何せsibakuroが持ってくる、恐っそろしく汚い字で書かれた 最早判じ物同然の肥料の手配書は『うんとか水和剤 2袋 尿素×500 硫カリ0.5g 何だかの有機液肥 1/3Q/t 何とかFe 10aあたり1Kg 何とかCu 0.5L 平米500cc散布 PG含み30面/8000L』なんて、そのようやく読めたと思った内容そのものが判じ物だったからだ。
当然現場はパニックに陥った。
sibatamiさん どうしよう」
撒布の段取りの廻ってきた奴がsibatamiのところに泣き付いてきたが、sibatamiだって普段は「芝生の管理は理論とデーター」なんて言っていたものの、いざそうして何倍とか平米の投下量とかで放り出されると 計算の覚束ないこと夥しかった。
みんなの視線を感じたか、鍾馗サブ親爺おやっさんはさっさとバイクに乗ってカップ切りに逃げて行った。
――――――――そういや 親爺おやっさんは蕁麻疹が出る程算数が嫌いだったはずだ
俺達は調剤する以前に 何を何キロ持ち出せばいいのか、既にしてそこから頭を抱え、電卓を突き散らかし、みんなで喚きながら計算を繰り返し、結局出かけられないままにsibakuroのところに行って この試験問題のような手配書の回答を求めることになった。
「だって、答え全部紙に書いてあるじゃん。1000Lに1Kg混ぜたら1000倍で それを1平米に1L撒いたら 平米あたり1g。あとはこの数字を入れ替えるだけだろ」
でも今度のキーパーは そういうsibakuroだから 素直に回答をくれるはずもない。
「この尿素は500倍だからぁ・・・・・・1タンクにぃ・・・・・・2Kg?」
「ピンポンって、お前ら 朝から当てものやってどうするんだえ?」
「拙いすよ、お客さんに追い付かれちゃいますよ」
「拙いなぁ、早く撒きに行かないとなぁ」
にたにた笑っては面白がっているだけなんだ。
結局答えが出るまで当てずっぽうで数字を言って 奴の顔色を窺って答を引き出してはようやくに答を得て俺達は飛び出していった。
そうして そのあとも撒布の段取りの度にそれは繰り返され、時に意地を張って自分たちで計算をした挙げ句には 結局朝のグリーン刈りの後を追いかけての散布が一タンクも出来ずに終わってしまったりもしていた。
それでもsibakuroは怒るわけでもなく その一部始終をにやにや笑って見ていやがった。




『振り返って ピースとかしてくんない?』 しないしない するもんじゃぁない
「もうほとんどイジメですよ」
ある時 あんまりの業腹の末に、sibatamiが皆の代表で顧問コワモテさんに直訴したことがあった。
その時の顧問コワモテさん、酒の残ったような赤ら顔で、
――――――――いや実際、そういった言に 仄かに酒の香を漂わせていたような
「馬鹿。野郎sibakuroの書いた物をもう一遍見直してみろ。間違えたら困る物は “二袋”とか“2Kg”とか はっきり書いてあるはずだぞ」
そう言って、にたにた笑いながら 多分酒の臭い消しの煙草を派手にふかして、そうして煙幕のように一層派手にけむ/rt>を焚き上げて言った、
野郎sibakuro 前にいたコースの若い衆わかいしは、その位のハードルはあっさりクリアしてたけどなぁ」
鍾馗サブ親爺おやっさんも 横っちょで面白そうに見ているだけ。




sibakuro顧問コワモテさんが、結託して俺達を挑発して面白がっているのは明らかだった。
どうやら親爺おやっさんも、大嫌いな算数の宿題の累が自分に及ぶことの無いと知っては、金輪際係わるつもりの無いのも明白だった。
いやもう 俺達にも意地があったれば、この勝負 受けて立つしかなかった。
昼休みに皆で相談した。sibatamiの提案で 倍率や投下量の換算表を拵える事にした。
言い出しっぺの宿命もあって sibatamiが纏め役になっていたが、sibatamiが纏めでもしなければ誰もやろうとしなかったから仕方ない。
今までsibakuroが寄こした手配書と、いつの間にか俺達がたむろする 日に焼け尽くして 芯が出るまで磨り減った畳の座敷に放り出されていた“ゴルフマネジメント”や“芝草管理用語事典”“The Green Keeper 2009”なんかも参考になった。
そして何よりも――――――――
『1000Lに1Kg混ぜたら1000倍で それを1平米に1L撒いたら 平米あたり1g。これだけ覚えていれば、あとはいくらでも応用できるべや』
些かならず悔しいことではあったが、sibakuroが何回もそう云って笑ったその言葉が 結局一番回答を得やすい方程式だった。
それとは別に、sibakuroここんち、、、、に来てから現場はてんてこ舞いだった。
『そろそろ夜温が良い按配にまで上がってくるから日本芝が元気になるなぁ。反対にベントなんかは昼間と夜の寒暖の差だな。夕方から朝までの涼しさ肌寒さが成育の鍵なんだな。C3植物とC4植物の違いって 案外そんなところにあるんじゃぁねぇの?』
なんてsibakuroが 気炎を上げて笑っているうちはまだ良かった。
梅雨の合間を縫っては 矢継ぎ早の薬撒きや更新作業の段取りを必死にこなしていれば良かったんだから。
それが.........
『今年は六月から七月に閏月が挟まっているから 夏のお天気が分んねぇぞ』
そのうちに例によって人を煙に巻くだけでなく、もしかして この人はsibafunokurokoではなく本物の“芝生のカルト”じゃぁないかと疑われるほどに怪しく 且つさっぱり要領の得ないことも口走りながら、更に忙しい段取りを組んでは更なる発破をかけてきやがった。刈込をして 穴開けやスライシングをして、さらには薬を撒いて 肥料を撒いて.........とにかく こんなに仕事に追われたことは初めてだった。
でも、その合間に俺達は その頃はもう なけなしの意地を張って、換算表を少しずつ少しずつ充実させていった。
そうこうするうちに お天気はグズグズになった。
なんだか梅雨の終わったのか終わらないのかよく解らない、それこそ 何にもコースの仕事の出来ない日が続いた。
sibakuroは事務所でごろごろ昼寝をして、連れてきたさくらと遊んでばかりいた。
“不順な夏”なんて言葉がsibatamiの頭を過ぎり始めていた――――――――




とまれそんな毎日の中で、自然に俺達の頭の中には倍率とか平米あたりの投下量なんかが擦り込まれていったのは事実だった。いつか俺達は キーパーsibakuroが渡してくる手配書を見ながら 換算表を使わずに資材の仕度が出来るようになっていた。
気がつけばキーパーsibakuroが書く手配書には 単純に資材と投下量と、撒布する薬液や粒肥の総量が書かれているだけになっていた。
それはそれで楽にもなったし 俺達の意地も立ったが、そうして冷静になってみると、今度はいちいち尿素や硫カリなんかの単肥を溶かしたり何だりが 矢鱈に面倒くさく感じるようになっていた。
いっそ 芝用の肥料を一つとか二つで 250倍とか100倍で済まないものか・・・・・・
結局 みんなの代表で キーパーsibakuroに聞きに行くのは、やっぱりsibatamiの仕事だった............









一季出版さん 月刊ゴルフマネジメントで連載させていただいております グリーンキーパーの野帳付録spinoff二回目であります。

本編マネジメントでは 2009年8月号 みんな顔と看板で生きているのです の回ですが、付録spinoffのくせに一回で収まらなくて いきなり続き物.........すみませんすみません



それから――――――――

一季出版さんのご厚意でホームページにリンク張って戴けたりもして.........ありがとうございます。でもちょっと恐れ多くて 些かびびってますです(汗