33. 新任のキーパーは『平場なんか退屈だ』って開口一番.........
『民ぃ〜 ・・・・・・民公やぁ〜い』
あ、呼んでる。
早く行かないと またあれだこれだ難癖つけられちゃうんだけどなぁ・・・・・・今 手が放せないんだってのな・・・・・・
その辺に鍾馗の親爺っさんでも居てくれれば 相手してくれるんだろうに・・・・・・
『民さぁ〜ん。野菊の民さぁ〜ん。それともカタバミやカタビラの民さんだったら 薬ぶっかけて枯らしちゃうよぉ〜』
「はいはい、今行きますよぉ」
ってか、あんたが押しつけた厄介事に手こずっているんだってば――――――――
何だって辞める前には完全に戦意喪失の呈で、仕事なんかそっちのけで 電話やメールで逃亡先のコースを探しているような有様だった。
それも逃げるに事欠いて シーズン入って梅雨を目の前にした、一年で一番厄介な時期を控えた五月の連休を前にして 草だらけで病気だらけのコースと、奴の為体に 好い加減殺気立っていた俺達を残して いきなり消えてくれやがった。
まぁ、はっきり云ってその頃には 先代のキーパーなんかは居ても居なくても そう態勢に影響はなかった。俺達にはまるきり五月人形の鍾馗さんそっくりのサブキーパーの親爺っさんが居てくれたからだ。
むしろ今度こそ 親爺っさんが正式にキーパーになってくれるのかと俺達コース課の若い衆は 密かに快哉を叫んだものだった。
俺達で親爺っさんをもり立てていければ・・・・・・
.........なんてね。そんな雰囲気すらあったのだが、やっぱり世の中そんなに甘かぁなかったみたいだった。
そういえばまだ名乗っていなかったっけ、
わたし sibafunotamibitoと云います。以後よろしくのお見知りおきを。
まぁ、みんな民さんとか、あの人みたいに民公なんて呼んでくれるから、どうぞお好きに・・・・・・
で、うちのコース課の顧問には、えらい強面の小父さんが居た。
鍾馗の親爺っさんを お寺さんの御門の「阿」だか「吽」の御仁王様としたら、その顧問さんは間違いなく「吽」だか「阿」の御仁王様だった。
どっちが怖いんだって、どっちも譬えようもなく怖い。
ご覧のあなたは、虎とライオンに挟まれた絶体絶命、絶対の死地にあってどちらの獣があなたに喰い着かないかなんて 考える余裕があるだろうか――――――――
まぁ 改めてそう考えてみれば、先代のキーパーは 左右を「阿吽」の御仁王様に挟まれ。前門には銀行上がりの算盤第一の支配人、後門を 化け物じみて切れ者の総務の番頭さんに迫られ。頭の上には 脳天気な癖に食わせ物の本社の常務が漬け物石よろしく乗っかっていて、もちろん下からは俺達コース課の面面に容赦なく突き上げられていたんだね。
まぁ 四面楚歌どころか三次元の八方塞がり(あれ?
まぁ、その逃げ出すに這這の呈というのも良く解るよ。
むしろ良くそれまで辛抱したもんだと 褒めてあげても良いくらいにうちのコース課が荒んでいたのが事実だった。
『民公ぉ、隠れてないで早く出ておいでぇ〜。早く来ないといっちゃうよぉ〜』
「だから今行きますってばぁ〜」
『早く来ないと、お前が年増大好きだって 総務に行って言っちゃうよぉ〜』
「だぁ〜っ、だぁ かぁ らぁ〜 今すぐ行くって言ってるでしょぉ〜」
先代のが辞めて、半月も立たないうちに顧問さんが連れてきたのが今のこのキーパーだ。
俺達若い衆の総意は親爺っさんにキーパーになって欲しいと云うのが本音だったが、何せ親爺っさんは例の一件以来本社の常務に睨まれていて いくら大地主と云ってもそれ以上 上には行けそうになかった。
そうして――――――――
『前の会社で ブログや雑誌に好き放題書き散らした挙げ句に 馘首になったら飯が食えなって俺泣きついてきやがった。いいや、野郎 キーパーでもやらしておかねぇと 何をしでかすか判らねぇ夜郎自大だから......』
............なんて人を顧問さんが何処から拾ってきたんだか、
何だし俺達は、犬と 無駄に馬鹿でかい犬小屋と 創業者の故人御覧になったら随喜の涙と覚しき程にこてんぱんに使い込まれたスーパーカブを手土産に着任したキーパーに肝を潰していた。
いや、それは本当に大分の後になって知ったのだが、二人してそんな風におちゃらけて見せながら その実今度のキーパーは 顧問さんの師匠の直系の弟子。云ってみれば気脈の通じた弟弟子だった。
『まぁ 親爺っさん居てくれるから、大概のもんじゃぁ追い出しちまって構わねぇだろ』
初めのうち そう多寡を括っていた俺達に、その肚を見透かしたように顧問さんが にやにやしながら言ったものだ。
『お前ら 精精sibakuroの煙に捲かれないようにしなよ・・・・・・』
その時の顧問さんの妙に楽しげな笑顔の理由を、俺達はその後でそれこそ散散に思い知らされることになった............
「あれ?・・・・・・キーパーは?......って、もう行っちゃったの?マヂで?・・・・・・拙いよ、拙すぎるだろぉ〜、なんでお前ら止めてくれないんだよぉ〜」
「ぃよぉっ、年増好き!」
「マドンナ命ぃ!」
朋輩がげたげた笑い崩れるのを背に、多分真っ先に“総務のマドンナ”に俺の年増好きをご注進に向かったキーパーを追いかけるわたしであります――――――――
一季出版さん 月刊ゴルフマネジメントで連載させていただいております【グリーンキーパーの野帳】の付録その1であります............ 本当は縦書き希望なんですが 縦書きのフォームはあれこれ制約が多いので、まぁ意地を張らずに横書きでも良いかと(笑 しかし・・・・・・やっぱり本編をご覧でないと 少少解りにくいかもしれませんね。 マネジメントお持ちの方は、2009年7月号 33回.新天地は霧と煙の彼方に をご覧いただければと。 ちなみに この回で上下のコースから ただねぇ、あんまり本編の内容を書いちゃうわけにはいきませんので このくらいでご勘弁ください。 まぁ 追追 腑に落ちるような展開になればとは思っておりますけれども............ |